近年、大学生が性暴力被害者となる事件が社会問題になっています。欧米においては大学生の性暴力は大学の重大な問題と認識され、1980年代より大学在学中の性暴力被害について大規模調査が行われ、多くの大学で性暴力予防教育が行われています。しかし、わが国においては人々の性暴力に対する認識は残念ながら不十分です。
私たちが日本の大学生に実施した調査で、レイプ未遂は7.8%(男子3.1%、女子9.7%)、レイプ被害は2.6%(男子1.6%、女子3.1%)、何らかの性暴力被害経験は42.5%にみられ、性暴力被害経験のある学生は、被害経験のない学生に比べ精神健康度が有意に悪く、性暴力被害はメンタルヘルスに深刻な影響をもたらしていました(※1)。また全国大学の学生支援機関の教職員に行った調査で、被害学生の相談経験は56.6%にあったものの、7割以上が被害学生への対応などに困難を感じていました(※2)。
性暴力被害者は人に相談することが難しく、望まない妊娠や性感染症のリスクのみならず、精神的に強いストレスを受け、その後の生活に大きな支障をきたします。被害者の回復のためには、性暴力被害後早期からの支援が必要で、初めに相談を受ける可能性が高い学生支援機関での対応が重要です。このサイトでは、被害学生から相談されたときのポイントをまとめました。
性暴力被害を受けた被害者が保健管理センターに相談に来た場合には、保健管理センター職員には警察、医療、法的、社会的支援につなぐコーディネーターの役割が求められます。対応の基本は、「あなたが悪いのではない」と伝え、支援の全てにおいて被害者が選び決める状況を作ることです。性暴力被害は一方的に同意のない状況で行われるため、支援の一つ一つを被害者が決めることが回復につながります。被害によるトラウマの影響で問題行動ととられるような態度になることがありますが、被害の影響である可能性を念頭に入れ、丁寧に対応します。被害者に対し「どうして逃げなかったの」「命が助かって良かったね」などのセカンド・レイプを、無自覚にしないよう注意します。
まず、急性期対応として警察への通報の意思を確認し、簡単に被害内容と被害の日時を聞きます。警察への通報は加害者検挙につながり、警察による診察料負担等がありますが、決して通報を無理強いせず、本人の通報の意思を確認します。希望があれば110番(緊急時)か各都道府県警察の性犯罪被害相談電話窓口につながる全国共通ダイヤル「#8103(ハートさん)」に連絡します。
警察への通報を希望しない場合で、性交があり被害1週間以内の急性期であれば、緊急避妊ピル投与等の対応が必要なので、直ちに地域の「ワンストップ支援センター」を紹介します。
「意識がもうろうとした」「記憶がない」という場合は薬物の使用Drug Facilitated Sexual Assault (DFSA) が疑われるので、排尿などしないように言い、直ちに受診を勧めます。被害後時間がたっていても、ワンストップ支援センターでは法律相談やカウンセリングなど様々な支援ができます。「大学生のための性暴力救援サイト」では全国のワンストップ支援センターの案内やメール相談を行っていますので、ご案内ください。
またリベンジポルノや性的な盗撮などの被害に関しては、PAPS(特定非営利活動法人 ポルノ被害と性暴力を考える会)が相談を行っています。
男性やLGBTQ+も性暴力被害を受けることがあります。その場合、被害者はさらに相談しにくいと言われています。不同意性交等罪の対象にもなりますので、警察もしくは地域のワンストップセンターにお問い合わせください。
大学においても、保健管理センターなどに性暴力被害の相談窓口のリーフレットやカードを置いたり、講義で性暴力をおこさないように「同意とは何か」、「性暴力に対する傍観者介入」などの啓発・教育を行っていくことが重要です。
大学生の性暴力予防に関する心理教育用教材です。
被害者の受ける精神的衝撃は大きく、直後には食欲不振、不眠などの急性ストレス障害(Acute Stress Disorder;ASD)を起こすこともあります。「被害にあうと調子が悪くなるのは正常な反応である」ことについて被害者に心理教育を行ったり、本人と相談した上で指導教員などに可能な範囲で配慮を依頼したりなど、大学の保健管理センター・保健室で可能な支援を行います。
長期的には性暴力被害にあった学生は成績が低下し、大学からの離脱が多いという報告もあります(※3)。精神症状が遷延し、外傷後ストレス障害(Post Traumatic Stress Disorder;PTSD)を認める場合には、本人に説明し被害者治療に熟練した精神科医師に紹介します。
加害者が学内者の場合、保健管理センターに加害者カウンセリングについて相談があることがあります。この場合は被害者支援と多重関係にならないように、加害者の処罰や指導を学内外の他の機関に紹介することが望まれます。